私たちが考える映画のチカラ

 私たちWorld Theater Projectは、約4万人の途上国の子どもたちに映画を届けてきました。映画を届けることで、生まれ育った環境に関係なく、夢を持ち自分の人生を切り拓ける社会に少しでも貢献できれば・・そんな想いで、“映画を贈る”活動をしています。
 では、途上国の子供たちに映画体験を贈ることは、どんなインパクトがあるでしょうか。映画を1本見ただけでは何も変わらないかもしれません。映画を観たタイミングや内容によって、また、子どもによって、感じ方は様々であり、何も響かないかもしれません。それでも、ある時には、映画で見たストーリーや情景、台詞が心の中に残り、人生を動かすこともあるかと思います。

注目される映画のチカラ

 
 最近、アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞にノミネートした『ぼくと魔法の言葉たち』という映画で、映画のチカラが賞賛されています。この映画は先進国が舞台ですが、自閉症で孤独な世界に閉じこもり言葉を失った少年が、ディズニー映画を通じ、社会とのかかわりを獲得していった実話となっています。前向きに困難を乗り越え、自立していく映画の主人公の姿が、孤立感に苦しむ少年にとってはまさに即応した内容であり、社会への糸口を探す最上の行動モデルであったとされました。

“知らない夢は抱けない”子どもたちに“夢を贈る”

 途上国では、子どもに将来の夢を尋ねると、多くが教師や医師と答えます。これは、身近な大人の姿からしか将来の姿を想像できないため、職業像の選択肢が非常に限定され、”知らない夢は抱けない”という言葉がまさに示しているとおりです。
 私たちの事業対象地であるカンボジアでは、プノンペン市を中心に近年急速な経済発展を遂げています。しかし、ポルポト時代に壊滅された教育システムは依然大きな課題となっており、特に、農村部では、貧困の悪循環から抜け出せない負のサイクルが指摘されています。
 私たちは、このような社会環境を乗り越え自己実現を達成するためには、”夢”が一つの起爆剤となるのではと考え、“夢を贈る”というアプローチに着目しています。エジソンが、「成功するまで何千回も実験を繰り返すエネルギーの源は?」という問いに対し、「I have a dream(私には夢がある)」と答えたことは有名です。また、学校教育の外で育ったとされる二宮金次郎は、幼少期に読んだ哲学書を機に、夢を抱き、目標を叶えるため勤労に励んだと言われています。この両2名の生き方は、経済的に貧しい環境にあっても、夢が豊かな人生を邁進する最大の原動力となることを体現したものであり、夢を心に抱くことがいかに子どもの自己実現の要であるかを教えてくれます。

映画ならではのチカラ

 では、私たちが配達している映画には、どのような効果があるとされているでしょうか。
 一般的に、映画や本・ドラマなどの、物語を伝えるコンテンツには、人間の価値観やマインドセットを変える力があるとされています。そして、この物語コンテンツは、若年層になればなるほど、本よりも映像による伝達の方が理解しやすいということが実証されています。

 中でも、映画は、ドラマと比較し尺が長く、音響・視覚効果の高いこと、そして、日常をスケールアップした濃いストーリーにより伝達効果が高いことが特徴とされています。さらに、半公共スペースに集まることで自分以外の人と体験を共有できる点は、本や書物にはない映画ならではの機能と言われています。
 その他、映画には、1分間の映像に文字情報に換算し180万文字分の情報伝達力があるとされ、物事を効率的に多くの人に伝える力(物事の伝達対象者を広げる力)が高いとされています。途上国のように読み書き能力が十分に伴わない子どもが多い地域では、視聴情報により情報を伝達できるという点で映画は大きな利点があります。さらに、本やドラマなどの媒体と比較すると、海外作品の行き来が多く、海外の世界や異文化の視覚的体験が容易という点も、映画ならではの機能とも考えます。 

“夢”を育む感性・想像力を与えてくれる映画

 では、映画が子どもの夢にどう影響するでしょうか。映画は夢を育む効果があるとも言われますが、映画によるインパクトは十分に示されていません。
しかし、物語の中の登場人物を通じて、新たな価値観や世界観を獲得できること、何より、「外の世界・未知の生き方を知り、色んな人生を体験できること」は、子どもに様々な正の効果をもたらしうると私たちは考えます。具体的には、以下のような点が、映画の効能として考えられるのではと仮説を立てています。

  • 子どもの『夢の選択肢』(職業像やなりたい姿)の増加
  • 子どもの感性や想像力の醸成
  • 子どもの前向きな未来志向・モチベーションの涵養」
  • 子どもの自己肯定感・自尊感情、ポジティブな自己認識の向上

 そして、副次的な効果として、映画を届けた地域で、「芸術文化への関心の醸成(教育における芸術の役割や子供に与える社会的効果への関心)」や「地域福祉力の向上(地域で子供を見守り、夢を育む意識の強化)」、さらには「地域コミュニティの活性化(経験の共有によるコミュニケーションの活性化)」にも貢献しうるのでは・・・。
 私たちはそんな想いで、子どもの感性の豊かさを育み国境を越えて心の琴線に触れる作品を選定し、映画を届けています。

映画のチカラ・・・言語化に向けたチャレンジ

 これらの映画のチカラは、どれも数字では測れない情緒的・感覚的なものが多くあります。そして、映画を観た直後にすぐに表出するものではありません。
私たちの活動を応援してくださっているサポーターの方が言ってくださいました。
 「小雨ではただ雨水が流れるだけ。だけど、大雨になれば、洪水となり物事を動かす力になる。」
5万人、10万人・・数十万人の子どもに映画を配達する中で、ある子どもの心に、映画で見た感動や情景が蘇り、人生を変えるきっかけになるかもしれない・・。私たちは映画によって胸の内に刻まれる感動の記憶が夢を育む非常に大切な要素だと信じ、映画が子供たちや社会にもたらす価値を言語化しようとチャレンジしています。

記事作成者
近藤碧(こんどう・みどり)
1983年生まれ。東京都出身。東京外国語大学 卒業。開発援助機関に勤務した後、シンクタンクにて、国際開発の他、児童福祉・教育の調査研究に従事。最近は社会的包摂に関心があり、特別支援教育の研究や実践に携わっています。
クラシック映画・ドキュメンタリー映画が大好きで、中でもお気に入りは、ビリー・ワイルダー監督の作品(「アパートの鍵貸します」と「お熱いのがお好き」など)。アコーディオンと書道が趣味で、好きな言葉は「愛語回天」(優しい言葉は世界を変える)。
愛犬を溺愛している。