TEDxICUスピーチ文公開

2017年9月30日に、WTP代表の教来石小織がTEDxICUに登壇させていただきました。グローバルな国際基督教大学で行われたTEDxのテーマは「和」。約18分のスピーチ全文を公開します。

今回のテーマが「和」だと聞いたとき、
私の頭に浮かんだのは、「平和」の「和」でした。

日本が誇る巨匠、黒澤明監督は、生前、こんなことを言っていたそうです。

 

人間というものは本当に愚かなものだ。いまだに戦争をやめられない。

こんなに愚かなものはないけれども、人間はなぜか映画というものを作ったな。

 映画には必ず世界を戦争から救う、世界を必ず平和に導く、

そういう美しさと力があるんだよ

 

映画にはいつか、人間を平和に導く力がある――

ならば映画を生み出すことと同じくらい、
生み出された素晴らしい映画を、
一人でも多くの人に広めていくこともまた、大切なのではないでしょうか。

この世には、星の数ほど映画があるのに、
私が出会ってきた途上国の農村部に暮らす子どもたちの多くは、映画自体を知りませんでした。

途上国に詳しいある方が、こんなことを言っていました。

「途上国を変えるのは実は映画なんです」

途上国の虐げられている女性たちが、
夫の許可なく買い物に行ってもいい、教育を受けてもいい、
そう思えるためには、彼女たちのマインドセットを変えるストーリーが必要である。

そして、ストーリーを伝えるツールとして最も有効なものの一つが、映画である。と。
1分間の映像には、文字に換算すると、約180万文字分の情報量が詰まっているそうです。

そして一度にたくさんの人が観ることができる。

 

私は今、途上国の子どもたちに映画を届ける活動をしています。
国際協力の世界に、それまでなかった映画を和えたのです。

この活動を始めた2012年当初、色々な人から言われました。

 

「なぜ映画なの?途上国には映画より先に届けるものがあるんじゃないの?」

 

確かに映画は、食糧やワクチンのように、生きる上で絶対に必要なものではありません。
でも、皆さんにとって、映画ってどんな存在でしょうか?

私にとっては、子どもの頃から、夢や生きる目的を与えてくれるものでした。

たとえばシンデレラを観たらお姫様になりたいと思ったり、
007を観たらスパイになるために勉強しようと思ったり、
映画の中のヒロインが強く生きる姿に、私もこうなりたいと目を輝かせたりしていました。

こんなに夢や希望を与えてくれる映画ってすごい。
私も夢を贈る側になりたい。将来は映画監督になりたい。
そう思ったのが小学6年生の時です。

迷うことなく大学は、映画を勉強できるところに進みました。
大学3年生のとき、新しい夢ができるんです。

途上国の村にホームステイして、ドキュメンタリーを撮っていたときのことでした。
仲良くなった村の子どもたちに、「将来の夢はなんですか?」と聞いてみたんです。

そしたらみんな答えられないか、先生とばかり答えるんです。

日本の子どもたちに聞いたら、もっとたくさんの夢が返ってくるのに不思議だなと思いました。

そうか。電気のないこの村には、テレビも映画館もない。だから将来の夢を聞かれても、身近な大人の姿からでしか思い浮かべることができないのかもしれない。

知らない夢は、思い描くことができません。
でも、この世で子どもの可能性ほど、大切なものがあるでしょうか。

もしもこの村に映画館があったら、子どもたちはどんな夢を描くのだろう。

いつか途上国に、映画館をつくりたい。それが私の、もう一つの夢になりました。

でも当時、その夢に対し、一歩を踏み出すことはありませんでした。

映画監督になる夢にも挫折して、私は映画から離れました。そして、10年が経ちました。
私は派遣社員の事務員として、夢のことなんて忘れて生活していました。
結婚に失敗したり、癌の検査に引っ掛かったことをきっかけに、考えたんです。

 

私は自分の人生で、何をしたかったんだろう。

浮かんだのは10年前の途上国の子どもたちの顔でした。

途上国の子どもたちに映画を届けたい。

気付いたら、カンボジア行きのチケットを買っていました。カンボジアは1970年代半ば、100万人以上が虐殺された国。それまでに栄えていた映画文化も一度ほろびました。

そんなカンボジアの子ども達に映画を届けたい。

しかしながら、チケットを買ったのはいいものの、何もかも手探りの状態で、何から始めたらいいかわかりませんでした。

突撃で企業の方に電話して、「もしもし、私カンボジアに映画館をつくりたい者なんですが」と言っては不審がられたり。「もういいや、いってしまえ」とカンボジアの学校にいきました。

そして、友達に借りたプロジェクターと、私のベッドのシーツで作ったスクリーンと、村で借りた発電機で、即席の映画館をつくりました。

持っていった映画は、アンパンマンで有名なやなせたかし先生原作のハルのふえ。

森でタヌキに育てられた男の子が、音楽家になる夢を叶えるお話です。
子どもたちの夢の選択肢が広がって、そして人生を切り拓く力を教えてくれるような映画を選びました。

上映権を得て、現地のカンボジア人の声優さんに吹替え版を作っていただきました。

準備は整ったのですが、私の一方的な想いで始めたことだったので、子どもたちに受け入れてもらえるか不安でした。

そしたら子どもたちは、こんな顔で映画を見てくれたんです。

タヌキのお母さんの行動に、お腹を抱えて笑ったり、お母さんと少年が別れるシーンでは、ボロボロと涙をこぼしたり。

最後には拍手をしてくれました。

日本のアニメは、カンボジア農村部の子どもたちにも感動を呼んだのです。

この光景を見た時、私はこの活動を一生続けようと決意しました。

なぜなら、初めてだったんです。

私の人生で、こんなにもたくさんの人たちに喜んでもらえたのは。

誰かに何かをしたくてカンボジアに行ったのに、逆に幸せや生きる希望をもらったのは、私の方でした。
一緒に、夢を追ってくれる仲間ができました。

私の夢は今、ワールドシアタープロジェクトというNPO法人になりました。

活動を開始した2012年。
最初のうちは日本人のメンバーが年に1、2回カンボジアに渡航して上映することがやっとでした。

2015年。
現地に住むカンボジア人たちが「映画配達人」を引き受けてくれて、週に1、2回のペースで、いろんな村で上映ができるようになりました。

2017年。
多くの方に支えられて、映画を観てくれた子どもたちの数は4万人を越えました。

私たちの活動は、世界に向けて放送される番組で取り上げられ、放送後、インド、イギリス、台湾、ドイツ、イタリア、いろんな国の方たちから反響がありました。

私には、お金も権力も、特別な才能もありません。今も普段は普通の事務員です。

日本のごく普通の、何の取り得もない派遣社員の事務員の夢が、世界に広がりつつあるなんて、まるで映画みたいだと思いませんか?

 

映画を上映してきた中で、忘れられない女の子がいます。

大人たちがタイに出稼ぎに行ってしまう村で暮らしているピーちゃん。

ピーちゃんに、将来の夢を聞いたとき、他の子と同じように、先生になりたいと言っていました。

でも、映画を観たあと、こんなことを言ったんです。

「夢が変わりました。私は、映画をつくる人になりたいです」

 

その瞬間私は、この活動は「夢の種まき」なんだと思いました。

カンボジア中に、そして世界中の子どもたちに、様々な映画を届けて、夢の種をまきたい――

 

けれどもカンボジア始め世界中の子どもたちにも届けたいというその夢はずっと、
三つの壁にぶつかっていました。

 

一つ目は、資金の問題です。

活動を続けるためには、資金が必要です。
活動資金を集めるため、私たちは日本でいろんな活動をしてきました。
日本の人が映画を楽しんだら途上国の子どもに映画が届く仕組みを作るための映画に関するイベント、
映画配達人体験ができるスタディツアーなど。

ご支援者の皆様に支えられ、今の活動を維持することができています。
維持することはできていますが、他の国に展開する資金はまだまだない状態です。

二つ目は、言葉の問題です。
私たちは子どもたちにより楽しんでもらえるよう、現地の声優さんご協力のもと、吹替え版を制作していました。けれども国ごとに吹替え版を作るのは時間もお金もかかります。

三つ目は、映画作品の上映権の問題です。
子どもたちに本をとどけるNGOの活動は世界中に広がっていきました。
けれども映画をとどける世界的な団体はありませんでした。

映画にはその性質上、簡単に上映できない権利の構造があるからです。

今、幸いにも私たちが上映できている作品たちは、活動に共感してくださった権利元のご担当者の方が、大変な苦労をして許可を出してくださったものです。

その一方で、上映できる映画を探している時にこんなご意見をいただいたこともあります。

「我々は莫大な資金をかけて映画を製作して、未だに製作費も回収できていない。いつかこの映画がお金になるチャンスを待ってる。作品は儲けるための資産なんだ。そんな中、いいことしてるから子どもたちに無料で上映させてください、安く上映させてくださいって顔されても困る。我々は映画を守らなくてはならない」

厳しくも、本当にごもっともなご意見でした。

私も映画を守ることはとても重要だと思っていますので、権利を否定しているわけではありません。映画は権利に守られているからこそ、資金の循環が生まれ、制作される方達が安心して作品を作ることができ、映画文化が発展してきました。それ自体を覆すつもりはまったくありません。

けれどもその一方で、こうも思うのです。途上国に届く食糧やワクチンの支援のように、映画経済の発展とは別のところで、裕福とは言い難い子どもたちに届く映画や仕組みがあってもいいのではないか。

なぜならそこには、もしかしたらその日観た一本の映画をきっかけに、人生を切り拓いたかもしれない子ども達がいるからです。

何年も壁を越えられないでいたある日、今年の初夏のことでした。

三つの課題を解決する一歩となるような、映画のような出来事が起こりました。

人気俳優であり映画監督でもある斎藤工さんから、世界のどこでも上映できる、言葉のない、権利フリーのクレイアニメを作らないか、というお話をいただいたのです。

私たちはワールドシアタープロジェクトの趣旨に賛同してくださり、作品の価値を尊重してくださる方で、子どもたちに映画上映をされたい方なら、誰でも、どの国でも上映いただける作品制作に乗り出しました。言葉がないので、どこの国でも上映できます。

その映画が、間もなく完成しようとしています。

利益を得るためでなく、子どもたちに観てもらうことを第一の目的に作られた最初の作品には、映画の魅力そのものが描かれています。

本作は上映時間約8分という短い作品ですが、この小さな作品と共に踏み出した一歩が、映画を観られる環境にいない子ども達に映画を開放する、大きな一歩となることを願っています。この作品をきっかけに、私たちは世界中の子ども達にたくさんの映画を届ける大きな動きを生み出していきたいと考えています。

映画を上映すること自体は、それほど難しいことではありません。

やりたい意志と現地の理解、スクリーンとプロジェクターなどの上映機材、そして映画作品があれば、だれもが映画配達人になれるんです。

今まで映画作品だけがありませんでした。間もなくそれが揃おうとしています。

各国へ映画配達人たちが赴けば、世界中の子どもたちに映画を届けることができるんです。

70歳の紳士も、高校生の女の子も、ここにいる皆さんも。だれもが。

ある方が、こんなことを言っていました。

 

映画の歴史は、始まってからまだほんの120年ほど。

 だから今あるすべてが、映画の形の正解とは限らない。

 

100年後の未来から今を振り返ったときのことを想像します。

映画を観られる環境にいない子ども達へ、映画が開放された瞬間が映画史に刻まれるとしたら、それは今なのではないか。

 

このプロジェクトへの共感の輪が多くの方たちに広がれば、すべての子ども達が映画を観られる世界をつくることは、今この時代に叶うことなのではないか。

正直私は、自分にはあまり自信がありません。

活動の課題も山積みです。

でも、私は信じています。
一本の映画が時に、だれかの人生をより良き方向へ変えるきっかけになることを。

 

私は信じています。
夢には人を這い上がらせる力があることを。

 

私は信じています。
映画にはきっと、生まれ育った環境に関係なく、子どもたちが夢を持ち人生を切り拓ける世界をつくる力があることを。

 

私たちの団体名は、ワールドシアタープロジェクト。

私たちのミッションは、世界中すべての子ども達に映画体験を届けることです。

日本から始まったこの活動が、やがては世界の平和に寄与することを願っています。

 

ありがとうございました。