2018年4月16日。バングラデシュの南東部、チッタゴン丘陵地帯のバンドルボン県で、World Theater Project によるバングラデシュで最初の映画配達を行いました。作品は、「フィルとムー」です。
バングラデシュ
南アジアに位置する国、バングラデシュ。首都はダッカ。国旗が緑地に赤丸で、日本のものと似ています。1971年、言語運動を以て(ベンガル地方の言語・文化を守るために)パキスタンから独立し、ベンガルの国を意味する「バングラデシュ」となりました。基本的にはイスラム教主体の、ベンガル人国家。国土のほとんどがインドに囲まれ、一部ミャンマーと接しています。日本の約4割程の国土面積に 1億6000万人以上が暮らす、人口密度のとても高い国です。写真はダッカのとある歩道橋から前後方を写したもの…どの道もだいたい人、リキシャ、自動車、犬・牛などであふれ返っています。日本からは、貧しい国、ストリートチルドレンやスラム、ゴミ問題、縫製産業、海抜0mの国などといった印象で知られているかもしれません。
チッタゴン丘陵地帯と国境沿いの少数民族
バングラデシュの簡単なプロフィールと首都の風景はあのような感じ(一例)ですが、これが私の大好きなバングラデシュではありません。この国に4年暮らし(初渡航からは8年)、私がここでいちばん惹かれ、関り続けているのは、国の一部にあるチッタゴン丘陵地帯という地域と国境沿いに暮らす少数民族なのです。彼らはアディバシ(ADIVASI, Trival People, Indigenous)と呼ばれる国全体の1.8%程の存在で マイノリティとなり、マジョリティとは異なる独自の言語、文化や宗教を持ちます。そのために政治面でも教育面でも色々な苦労を抱えています。私はバングラデシュの王道を紹介するのではなく、逆にバングラデシュの多様性(45民族)を…これから映画上映レポートと織り交ぜて、伝えていけたらと思っています。バングラデシュは田舎こそ美しいです。
移動映画館に辿り着くまで
WTP代表のさおりさんと同じ、日大藝術学部の映画学科を卒業し、学生時代にドキュメンタリー制作で出会った途上国・私の場合はバングラデシュがいつまでも心の中に在って、この国にまた舞い戻って(作品作りに)来ました。まずは一年間暮らそうと思っていました。先ほど述べたチッタゴン丘陵地帯や少数民族にフォーカスを当てるようになったのは、話すととても長くなってしまうのですが 今は簡単に…自分の幼少期からの経験が 彼らのマイノリティという境遇に重なったのと、もう1つは、大好きなアニメーション映画「マイマイ新子と千年の魔法」という ひと昔前の日本の子どもを描いた作品をみた後に『今こんな子どもたちや田舎風景に出会えたら…ドキュメンタリーにしてみたい。』と思い 探していたら…自然とこの地域に辿り着いていました。今思うと、それらは100%一致していたわけではないし、ここでも思い通りにいかないことは多いですが、それでも、私を現在へ導いてくれた幼少期の経験(当時はちょっと辛くても)と一本の映画に出会っていたことに、なんとなく感謝しています。ここで映像を撮り、写真集を作ったり、いくつかのボランティア活動をしてきました。「移動映画館」は私のいちばんの夢ではないけれど、この場所でこれからもっと暮らしていきたい私にとって 1つの夢で、地元の人のニーズをそばで感じながら、その順番がきているような気がしたら…不思議にもぴたりと、WTPとさおりさんに出会うこととなりました。
第一回目の移動映画館
レポート初回のため、前置きが長くなりましたが、
これからバングラデシュの全土に、そして全民族の子どもたちに映画を配達したいと想うのですが、どうしてもその第一歩はチッタゴン丘陵地帯(CHT)で踏みたい…と心に決めていました。CHTは、過去に国内紛争(対マジョリティのバングラ政府)をしていて、97年に和平協定が結ばれた後も、土地・人権問題、衝突事件や村の焼き討ち、難民やレイプ被害者が出る等…未だに問題は解消されず、外国人に対しては入域規制もかけられています(入域許可証が要る)。私は月に一度、一週間程そこへ訪れていますが、村にいる時それほどの危険を感じたことはなく、むしろ逆に、軍の駐屯が美しい田舎風景や現地の人々の自然体を台無しにし、入域規制という重たそうな壁が中のふつうの人々の色々な経験や知識、光と出会う機会を閉ざしているように感じます。望まれない開発や入植、製品の出入りは盛んになっているのに…
「映画」は私にとって “人のためになる” と信じている素敵なものです。なのに、いざとなって これが本当に欲しがられるものか、関心を持たれなかったらどうしよう などと不安になり、この第一回目が踏み出せないでいました。しかし、思い切って飛び込んだ ボム民族の村で…
ちょうど4月の新年祭で 国全土はお休みモードでしたが、「今からスクリーンで映画を上映します!日本から持って来ました!」とお茶やさんで伝えると、学校の教室に村の子どもたちが集まってきてくれました。上映準備をしながら、着席している子どもたちの視線を感じてドキドキしました。8分間の上映後、子どもたちはなんと「もう1回みたい」と言い、もう1回みた後には「もっとみたかった」と言ってくれました。初めての上映で 子どもたちの様子を眺め、暗闇をいいことに 私は密かに泣いてしまいました。そしてまた、次の作品を持って来ることを約束しました。
今回は、映画配達初の私の感想ばかりになってしまいましたが、今度は子どもたちの感想や気持ちにフォーカスをあてて、レポートしていきたいと思います。
ボム民族の子ども
ボム族はキリスト教徒なので、クリスマスと西暦のニューイヤー、イースターなどをお祝いします。オレンジと黒のドレスと冠のようなヘアアクセサリーを身につけるのが伝統スタイルで、サイチョウ(Hornbill Bird, 写真右)が民族のシンボルです。
原田 夏美
日藝映画学科卒業後、ドキュメンタリー制作会社の勤務を経て、学生時代に映像課題のテーマにしたバングラデシュに2014年より暮らし始める。中でもチッタゴン丘陵地帯や少数民族地域と深く関わり、写真・映像制作を行う。現在は活動名を “ChotoBela works” とし、バングラデシュの子どもたちの「子ども時代」(チョトベラ)を彩れるよう、映画上映を含む活動に取りかかる。
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