
第6回チッタゴン丘陵映画祭(6th Hill Film Festival)が、バングラデシュの南東部にあるチッタゴン丘陵地帯のランガマティで昨年(2024年)12月26日〜28日に、そして年をまたぎ1月2日〜4日に首都のダッカで、開催されました。
World Theater Projectは、バングラデシュ支部として現地での移動映画館活動を続けてくださっているRuwang Collective Artsを通じて、映画祭のサポーターとして協力をさせていただきました。
●「チッタゴン丘陵映画祭(Hill Film Festival)」
チッタゴン丘陵地帯は遠隔地である上に、それぞれの言語を持つ複数の少数民族が暮らす地域であるため、子どもたちが母語で楽しめる映画や映画館と出会える機会は大変限られていると言えます。チッタゴン丘陵映画祭(Hill Film Festival)は、この地域の少数民族出身の学生たちが、故郷の子どもたちに映画を楽しんでもらいたいという思いで2014年に立ち上げたものです。

ダッカの会場
第6回目となった今回はバングラデシュを含む14カ国から集まった約50作品が、コンペティション・非コンペティション部門それぞれに、長編、短編、ドキュメンタリー、学生作品、実験作品などのカテゴリーに分かれて上映されました。さらに先住民族・少数民族にフォーカスした上映カテゴリーも設けられ、多様な文化やアイデンティティを理解し尊重し合える世界を目指し、積極的にメッセージを発信する映画祭となっています。
World Theater Projectからの提供作品としては、スペインのアニメーション作品「FLY」(カルロス・ゴメス-ミラ監督)がそれぞれの開催地にて上映され、下は4歳から17歳の子どもたちが観にきてくれたそうです。

チッタゴン丘陵地帯、ランガマティの会場
●映画祭発起人でディレクターのAdit Dewan(エディット・デワン)さんからのレポート
チッタゴン丘陵地帯にある地区ランガマティでは、シルパカラ・アカデミーと言う芸術系の催しなどに利用されている施設が会場となりました。大きなエントランスに座席スペースが設けられていて、その建物からもそこにそびえるガジュマルの木からも長い歴史が感じられる空間です。私たちはその空間をポスター展示やフォトブースをつくり、開放的な観客席にし、活気あふれるお祭りの雰囲気を演出しました。
作品上映を含む映画祭での催しは、タイムテーブルに沿って予定通り進められ、段取りも雰囲気も素晴らしいものとなりました。年齢や職業、関心の異なる様々な人々が、世界中の映画を鑑賞し、作品と触れ合うことを楽しみました。
ランガマティの上映風景 上映した短編アニメーション映画「FLY」はセリフがなく、愛らしく、視覚的に訴えかけるアニメーション作品で、心温まる物語を誰もが深く理解することができました。
「FLY」はランガマティで、12月26日の夕方に上映し、子どもたちは両親や友人、家族と一緒に訪れ、温かい雰囲気に包まれていました。また1月2日にはシャラ地区(ダッカ)でも上映しました。
ダッカの会場 上映作品全体を通して、子どもたちはシンプルでありながら、視覚的に想像力を刺激してくれる短編アニメーションを楽しんでいました。
チッタゴン丘陵映画祭が今後も発展していく中で、子どもたちは、多様で想像力をかき立てる作品との出会いを待ち望んでいますし、映画との絆を強めています。
また彼らは、自分たちが持っているツールを使い、自分たち自身でさまざまな映像作品を創り出すことにも関心を高めており、自らの先住コミュニティの長老たちが、初期の映画制作に取り組んできた経験からインスピレーションを得ていくことでしょう。
ランガマティ会場でのトークセッション 第6回チッタゴン丘陵映画祭は大きなインパクトを持って開催することができました。バングラデシュの少数民族の言語による作品を楽しんでもらえる機会になり、また映画作品やアート、そして少数民族の権利についてなど、多くのディスカッションの場を作ることもできました。
●ダッカでのクロージングにも参加された原田夏美さん(Chotobela Works)からの感想

私がこの映画祭と出会ったのは、2015年、チッタゴン丘陵地帯のランガマティで第2回が開催されていた時でした。そして、2018年(第4回開催年)、WTPのバングラデシュ支部として活動を始めていた私は、WTPと通じる理念を持って行われているこの映画祭で「フィルとムー」を上映し、パートナーとして支援できたらと思いました。
チッタゴン丘陵地帯は、首都ダッカから車両で8時間程かかる国境沿いに位置し、また、この国のマイノリティ(少数民族)の人々が暮らす地域で、政府によるインフラやファシリティなどの整備が平等になされておらず、子どもはもちろん大人も、映画館で映画を観たり、エンターテインメントに触れたり、学びや感動といった、色々な世界と繋がる機会が乏しくあります。
そんな境遇を自分たちで何とかしていこうと、当地域の(当時)大学生が立ち上げた映画祭。第5回までは、チッタゴン丘陵地帯・少数民族の言語、文化、土地で、彼らが「アイデンティティ」を表現する作品制作と上映が目的でしたが、今回からは、国内外の作品も募り、さまざまな個性をもつ他者・社会との関わりにおける自分らしさを確立していく、そんなステップへ進んだように感じています。
次の開催は2年後ですが、彼らは(当事者として私も)チッタゴン丘陵が軍政で外国人入域規制があることを映画祭の力で乗り越え、海外から招待できるほどになれたら…とまた大きな夢を抱きました。
ダッカで行われた閉会式で、私はWTPの映画配達人として挨拶したのですが、その中で、「みんなが映画を観て、楽しんで、そして、この国や世界で自分を脇役のように感じるのではなく、主役として表現(制作)することができたらいいなと思っています。今回少し残念だったのは、会場に子どもたちの姿があまり見えなかったことです。でも、ここにいる映画制作者や活動家のみなさんがこれから、子どもたちのために素敵な映画を届けてくれることを願っています。」と…。
その後、そこにいた一人の映画制作者(しかも受賞者)から連絡が…映画を撮影した村の人たちへ、映画を届けたい!と。そんな流れで、次の移動映画館は、バングラデシュ北部にある少数民族ガロの村で開催予定です!
次回、ガロの村からのレポートを、どうぞお楽しみに。
昨年度再開したバングラデシュでの移動映画館を、今後もぜひ、注目していただけたら幸いです。
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