2018年9月10日〜16日の一週間、できたてほやほやの現地語吹替版「ハルのふえ」を持ち、バングラデシュの南東部、チッタゴン丘陵地帯で移動映画館を行いました。まずは一県目、ランガマティでの様子をお伝えします。

おはよう、丘陵地帯の子どもたち!

実は、首都ダッカでアニメ映画のデータ書き出しまでが完了したのは、夜行バスで村へ出発する日の夕方でした。前日までリテイクや編集を繰り返し、もう前夜の書き出し(時間がかかるので、いつもだいたい眠りながら待つ)で失敗したらおしまいだ…というギリギリの状況で、案の定数回書き出しに失敗し、しかし出発の3時間前に完成…予約していたバスに乗り込みました。荷造りも、明日からの巡回予定もあやふやなままでしたが、大事な映像データ含む『移動映画館道具一式』と『入域許可書』(チッタゴン丘陵地帯へ行くには外国人入域許可書が必要。※チッタゴン丘陵問題)さえあれば、あとはなんとでもなる!!と頷き、この2つだけはしっかり握りしめ出発しました。

8時間程バスに揺られ、早朝6時に目的地のランガマティへ着き、「おはよう、丘陵地帯!」と心の中で唱えました。4月のお正月「ビジュ」以来に訪れ、こんなに長く来ていなかったことに自分自身でも驚きましたが、でも、次は必ず映画を持って来るんだ!と心に決めて頑張っていたので、寂しさに自然と耐えられていたのかもしれません。

バスではいつも眠れず、村に着いてから、仲良しのチャクマ族のおばちゃんやお坊さんに会い、寄宿舎学校の休憩室で少しだけ眠り、その日の午後から一校目の上映に動き出しました。

一校目はチャクマ語(少数民族語)で

一校目は、チャクマ族の子が9割、ベンガル人(バングラデシュの多数派)の子が1割という、首都ダッカの状態とは真反対の生徒配分である学校で、早速チャクマ語の「ハルのふえ」を観せることに。

たとえチャクマの子が多く居ても、普段の授業はベンガル語(国語)で行われます。チャクマの友達同士の時や、家に帰れば家族とチャクマ語で会話するけれど、「母語でアニメを観るなんて!しかも学校で!」そんな気持ちが現れるように、子どもたちは画面に釘付け状態でした。

教室に入った途端、私の声がまったく通らないほど、移動映画館を歓迎してくれた子どもたちの歓声と、その中で「ディディ!」(お姉ちゃん!)と叫ぶ女の子たちがいて、4月のビジュで家々を廻っていた時に、彼女たちと私は偶然一軒で一緒になり、ビジュを食べ、ジョゴラ(お酒。この時だけは子どもも呑むことを許される)を酌み交わした子たちだと気付き、こんな再会と一回目の上映成功にとても感動したのでした。

二校目はベンガル語(国語)で

一校目と同じ地域でも、こちらはベンガル人と少数民族の子の割合が半々の学校でした。したがって、ここでは国語のベンガル語で上映を行うことに。

予てから、吹替版制作に込めた想いがあります。

ベンガル語版の制作は、もちろんバングラデシュの98%を占めるベンガル人の子どもたちが楽しめるために。そして、もう1つ…少数民族の子どもたち(チャクマ族だけじゃない45民族)が国語を学ぶ抵抗を少しでも減らせたら、苦手意識を和らげられたら…と願っていました。少数民族の子どもたちが国語を学ぶことは、私たち日本人が英語を学ぶ苦労と同じ。必須さで言えば、私たちは決して英語がぺらぺらじゃなくてもいいけれど、彼らはぺらぺらに近付かなければ、この国で生きるのに苦労します。

たとえば、このような山岳地域・農村部で小学校に入りたての少数民族の子が、少し国語の勉強に躓いていたとして…それが、アニメ映画という形で身体に楽しく浸透し、面白くてまた観たいなんて思えたら、勉強に立ち直るきっかけを、国語でできたアニメと移動映画館がもたらすかもしれないと…そんな風に想い、制作に取り組んでいました。

この学校には5学年で800人の子どもたちがいて、上映を2回行いました。後方の子どもたちまで十分に鑑賞できたか心配ですが…笑う子、驚く子、立ち上がる子、肩と肩の隙き間から覗く子、よそ見してる子、おしゃべりする子、みんなで分とうと「ここからなら観えるよ!」と手招きし友達を引き寄せる子…スクリーン側から色々な子の様子が見えました。

ひとりひとり、心に遺り方も様々でしょう。今の私たちにできることは種まきだと思って、映画と出会った誰かの心に、いつかそっと何かが咲きますように…私も、映画から現在をもらった一人です。

クラス1〜5(小学1〜5年生)

その日、移動映画館が来る!ということを先生から少し前に聞いていた子どもたちは、私たちの姿が見えただけで「キャーーー」と歓声をあげました。子どもたちに圧倒されながら教室へ突入し、もう一声「カートゥーン(アニメ)映画を観せに来たよー!」と発すると、このように大喜び。

喜び極まりポーズまで!

この学校でも2回上映したのですが、ズルして2回とも観に来る子がいたのに笑いました。彼らにとっては、もしかしたらストーリーより映画館というシチュエーションがワクワクなのかもしれないと、活動を行ってるうちに気付いてきました。そう気付くほど、まだ映画館とは到底言えないムードづくりの力不足に反省です。教室は蒸し風呂状態だし、映写機の光は弱くてスクリーンいっぱいにもできていません。

今後改善して、素敵な映画館空間を作り上げていきたいです。

拍手喝采!!!

小学校の子どもたちが見せてくれる様々な反応の中で、「ハルのふえ」に関して、どの学校でも共通して盛り上がる2つのシーンがあります。

1つ目は、物語の初めの方、赤ちゃんが大泣きするシーン。実は、その赤ちゃんの声は私がやりました。赤ちゃん役は恥ずかしい…とキャストがなかなか決まらず、それで自分でやることにしたのですが…結果、子どもたちが決まって笑ってくれるシーンとなり、やってよかった!と思っています。

2つ目は、物語の終盤、笛の世界大会で、田舎出身の少年パルが、町で英才教育を受けて育った少年ミロを打ち破り、見事優勝するシーン。その時、劇中のコンクール会場で観客からじょじょに拍手が起こるのですが、それを観るか観ないかの段階で、映画を観ている子どもたちの方から拍手が沸き起こるのです。

この様子は是非、動画で見てもらいたいです!!
https://youtu.be/rbbZckssIac / https://youtu.be/2UsyqDCtV_w

クラス6〜8(中等教育)

11〜13歳程にあたる(とは、日本と違い落第や遅れて学校に入学する事情が一般的にあるため)クラス6〜8。今まで廻ってきた小学校とは変わり、子どもたちは若干落ち着いて、照れ笑い気味で移動映画館を迎えてくれました。

3教室ばかりの中学校に、チャクマ、マルマとトンチョンギャの少数民族だけが通い、後者の2コミュニティはチャクマ語も理解る(チャクマが多い地域に住んでいるから)ということで、チャクマ語で上映を行いました。

中学生たちは、キャラクターたちのアクションよりもストーリーをしっかり掴み、愉快な掛け合いや皮肉なセリフ等に笑いが起きていました。

大失敗…

ランガマティ県で、今回ラストの上映日に、初めて大きな失敗をしてしまいました。

1000人以上の少数民族の子どもたちが通う寄宿者学校の食堂で上映することが決まり、普段350人程が一斉に集えるぐらいの広いスペースだから、手持ちの機材では光量も音量もすべて力不足と思い、学校にある会議用のを借りることに。この日は祝日だったため、生徒達の中でもホステルに寄宿している子たちに向けての特別上映にしよう!とまで意気込んでいました。それなのに…

やってしまった失敗は、昔から私の頭を悩ませる機械の互換性問題。映像のデータが在る私のMacを、学校のプロジェクター(日本製)が認識せず映し出せないことから始まり…あれやこれやと試行錯誤して、結局上映に至れず。そうして半泣きになっていたところ、女の子がパソコンを覗き込み、戸惑う私の色んな操作を面白そうに観ていてくれました。

バングラデシュではそういうことにも慣れたかの様に、男の子たちは持って来たギターで歌い始め、そんなこともあるよね〜という風に過ごしてくれました。ごめんね…そして、ありがとう。

ここへは次回必ず出直す約束をしました。

どこでも映画館♪

移動映画館の後、学校の先生がごはん(と地酒)を食べにおいでと呼んでくれ、そのお宅の子と近所の子たちが集まってきたので、パソコンで「ハルのふえ」のチャクマ語、そしてクレイアニメの「フィルとムー」をミニ上映会しました。

原田 夏美

日藝映画学科卒業後、ドキュメンタリー制作会社の勤務を経て、学生時代に映像課題のテーマにしたバングラデシュに2014年より暮らし始める。中でもチッタゴン丘陵地帯や少数民族地域と深く関わり、写真・映像制作を行う。現在は活動名を “ChotoBela works” とし、バングラデシュの子どもたちの「子ども時代」(チョトベラ)を彩れるよう、映画上映を含む活動に取りかかる。

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